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おっさんの日記

「働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)」を読んだ

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

 ただ単純に面白そうな題名で、いわゆるジャケ買いしてみた。「増刷」という文字もあったからかもしれない。本屋でパラパラめくって読んだ感じも(これじゃジャケ買いじゃないだろ!ってのはなし)読みやすい文章と分かりやすさが良かったので購入を決めた。購入して読んでみて、こりゃジェットコースター読み物だな。生物系は面白すぎ。と思った。以下、殴り書き。

内容

1章

 一つの本をかけて話す真社会性生物についての紹介。アリ、ミツバチ、アブラムシ、シロアリなどがそうらしい。珍しいのは粘菌(ナウシカで出てきたアレとか)もそう。著者の研究対象のアリを中心に多様な事象を人の生活と比較しながら紹介する。虫たちのように中間管理職などの役付きがいない者たちがどうやって群れを制御しているかという面白い事象、それは36ページの「コロニーにとって必要な仕事が適切に処理されているか否か」という一言が言うように、個々の虫たちの一見バラバラに動いているような感じがするが、先の観点で見ると達成されているので面白い。


 また、1章の「七割のアリは休んでいる」とう衝撃的な小題は自然界の予測不可能性に対応するための余力としての働かないアリの存在で「ある瞬間を見ると」と言う言葉が頭に着く。群れの存続にはその余力が大事だという。

2章

反応閾値(はんのういきち)という素人には耳慣れない言葉を中心にアリが行動を起こすキッカケとなる値に個体差があることにより巣のみんなが疲れないシステムを構築しているという。反応閾値が異なるために、みんないっせいに仕事を始めるのではなく、仕事を始める時間が異なる閾値のおかげで、ある瞬間では休んでいるアリがいて、仕事が多くなるとその仕事をするために適切なリソース(アリの数)が振り分けられるようになるという。


なので働かないアリを見た場合実は閾値の違いで働きたいけど働けない、仕事にありつけない状態だと言う。一見効率の悪いような「余力」を生み出すこの閾値が先の「適切な仕事が適切に」を実現させる一端と説明。

3章

血縁選択と群選択という理論からなぜ子を生まない働きアリが存在するか説明。ただ証明はされていない。自ら子を生まないという働きアリの戦略が実は自分に似た遺伝子を残すと言う面からは利益にもなっていると言うのは事実。血縁選択と群選択についてはp104に概略あり。でも物語として成り立ちを読んだ方が面白いかも。

4章

なんですと!の連続!僕もアリのガッツにあやかりたい。人間を含め社会性生物は社会から個体へ、個体から社会への利益還元のサイクルで回る。そのサイクルのなかで人間にもいるように自分の利益だけを追求するフリーライダー的なアリ(種)が存在する。それはチーター(偽装者)と呼ばれ、群れとチーターの間での攻防があり、チーターが入った群れは通常2〜3年で死滅する運命にある。


しかし、その群れだけを見ると絶滅の運命になるが、その群れがいる地域全体では群れとチーターの共存関係になっている。その攻防は生物の細胞が新陳代謝で絶えず入れ替わるよう。一つの地域で絶滅と勃興を繰り返して、全体では同じ種が残っているという・・・地域全体のアリで一つの生物と見れば良いのかな?


4章ではチーターや自分(の遺伝子)だけが生き残るシステムとして様々な形に進化したアリを紹介する。奴隷制、クローン・・・その目的は自分の遺伝子を残すことで雄雌が別種に進化したのもいるという。しかし例え「クローンで構成される社会であっても、その維持のためには個体の「個性」が必要。」というように個性がうまく回る仕組みが必要で結局は多様性をその中でもなんとかして作り出す。

5章から終章

我々の体を構成する細胞も実は先の血縁選択で説明できる。各細胞は受精後に肺や筋肉、胃や腸など分化するがこれらの細胞が個々に自分の子を残さないのは、もとは一つの細胞から細胞分裂で生まれたもので、同じゲノムであり残す必要がない。子を残すのはその残すことに特化した器官、卵巣、精巣の役割と言い、実は今まで見てきたアリの場合も同様で、元は女王アリから生まれたワーカーアリは労働力を提供する筋肉に特化したのだとすると、女王アリは生殖器官にあたる


進化論を引き合いに環境適応度が高い生物が残るとは何かを書き生物の進化とは全ての環境に適応できる神を目指す工程ではないかと示唆する。しかし環境は常に変わるため完全な生物にはなりえない。永遠に進化を繰り返す。

感想など

面白い!小さなアリ達は人間のような脳を持つことができないため、単純な法則で行動を決める。仕組みは遺伝であったり行動的な制約であったり、その行動を決めるパラメータの一つ一つは簡単なだけにプログラムで何か出来んじゃね?って思ってしまう。つまり似非シミュレーター。質の悪い車輪の再発明だが。また行動分析学ABC分析そのまんまっていうのが面白い。


内容以外には著者の「例え」がいちいち面白いねぇ…と思った。阿部定の例えとか。阿部定と同じような例はみんなが知ってるのではカマキリがあるね。あちらは頭部切断が精子注入のキッカケになるって聞いたけど。ここで思ったのは環状神経の虫は先のカマキリのように頭部を切断されたとしても、全体としては神経の大部分が残っている状態で、一部の器官が無くなったに過ぎないのかな?精子ドクドクやって死へのカウントダウンしている間、実は気持ちがいいのかなと思ったり。あとエバネタあり!吹いた。綾波ファン必読!


2章では閾値(個体の多様性)を中心に多様性の話題で話が進むが地球全体で見ても種の多様性が生物を生き延びさせるし、一つの種を覗いてみてもハキリアリやサムライアリといった種の多様性、その中を覗いても個体の多様性が種を存続させる鍵となる 面白い、マンダラのようだ。まるで手塚治虫の「火の鳥 鳳凰編」で茜丸が死ぬ直前に火の鳥が見せた無限のループに似ている。以外とこの多様性はそのループの始まりまたは途中だったりして。


女王アリ、名前の通り、自分の子を産み続け、自分の遺伝子だけが生き残りワーカーアリを支配しするかと思いきや実はワーカーアリに支配される存在!というのがなるほどと思った。こういった例は昔の日本にもあったよね。殿様とか。実は殿様はエライのかとおもいきや老中たちの決めたことを「よきにはからえ」としか言えず、モノを言おうものなら「殿!ご乱心」と座敷牢に入れられたと聞いたし、まぁ、官僚と政・・・おっと口がすべるところだった・・・


虫ケラの話を読んで僕らの生活に当てはめてニヤニヤするのもよし、人間で**まだ**よかったなぁって思うのもよし、非常に面白い本でした。お勧めしますよ。