arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「知立国家 イスラエル (文春新書)」を読んだ

知立国家 イスラエル (文春新書)

知立国家 イスラエル (文春新書)

本屋に行ってアレコレ読みたい本を探すわけですけど、30分も本屋をウロウロしているともう疲れるんですよね、、なので、目についた本をつかんで購入してしまうってパターンが増えてくる。これもそのパターン。昔のジャケ買いとも違う何か。ジャケ買いは少なくとも「このCDには何か僕を引き付けるものがある!」って希望があって買うのですが本の場合はそれが無い。

イスラエルってどんな国だろう、最近Twitterでちょっと話題になっていたが、今はこういう国。



グーグルマップやストリートビューでも首都エルサレムあたりは風景が見れますが、砂漠とボロボロの石の建物など、雨なんかも降らなそうです。また先のツイートで見るように治安も悪そうです。このツイートの背景には”2016年に非番で非武装イスラエル兵士が襲撃され殺害される事件があり、それ以降非番の兵士に外出時の武装を命じている”と言うのがあるそうです。国民全員(男女とも)に兵役の義務がある国です。日本人からしてみればこんな物騒な国がどうして知立国家と言えるのでしょうか?


実は我々の日常生活でも大変お世話になっているモノが多く、例えばグールでお世話になるグーグルサジェストなんかはグーグルのイスラエル研究所で作られたそうだ。パソコンが持つCPUでもインテルのCPUであれば8割はイスラエルの研究所で設計、製造されているという。ファイアーウォールや監視カメラの不審者だけを切り出すフィルタなど結構イスラエルが関わっているのは多いという。アメリカの投資家が絶賛し、アメリカの企業がイスラエルに研究所を作り、イスラエルの技術者の頭脳を活用する。


イスラエルは1948年建国の若い国で、四国ほどの面積に現在900万人も満たない人口ですが、一人あたりのGDPで336.6千ドル、日本が37.4千ドルで日本の25位に次いで26位だそうです。日本の1/10の人口にも満たない国が日本に次ぐGDPなのですね。ものすごいです。自分は子供の頃から日本は世界の中でも小さく資源もない国でと言われてきましたがそれ以上に小さい国なのですね。その小さな国が日本に次いでのGDPを出すにはどんなことをしているのでしょうか?


読んでみて感じたのは、著者のイスラエル熱のすごい事。イスラエルと言うと、アメリカが大人の事情で作った国とかユダヤ人が集まった国といった、変なイメージがあったけど、著者によるとイスラエルとは、世界中で迫害を受け続けてきたユダヤ教の人達が迫害を受けづけるのではなく、今のエルサレムパレスチナ)に集まろうとするシオニズムと言う運動の結果、建国した国で、国民の根底には「存続していくこと」があると言う。つまり、生き抜いていくこととだという。


国民の構成は建国以来移民を大量に受け付けてきたため、他民族国家ともいえます。ただし、アメリカのような多種多様な民族、宗教ではなくユダヤ教であれば移民として受け入れてもらえると言う性格上、国民の殆どは基本的にユダヤ教です。そういう部分でアメリカとは少し異なる人種のるつぼ、となっています。


著者はイスラエルの強さは個人にあり人材であると言います。迫害されてきたユダヤ人たちにとっては金そのものよりも、教育こそが資産である、そのために個を大事にし、突出させると。それは移民の子どもであっても教える「問題に対する解決策を考え出す力」と言う事で、「自主性・自立の精神」(p88)だと。教育の理念がしっかりしているのですね。


それら個人の強さ、世界中での活躍を輩出するのが著者が言う、イスラエルエコシステムと言うもので、まずユダヤ人は自由な議論を好み幼少期から徹底的に「なぜ?」の問いを続けるよう教育されると言います、勉強ではなく個人が学問を行う素地を作るのですね。そして国存続のため行う兵役で若者に大きな権限を与え、自立を促す。大義に尽くすことを知る、また仲間と苦難を乗り越えると言うものです。


それで兵役を終えた若者たちはどうするか?本書によると一年から二年ほどお金を貯めたあとそのお金を元に各国に旅行し、また戻ってきて大学に行くなり、起業するといいます。自分の目で世界を見てきて自分の道を決めるわけですね。羨ましいです。



著者曰く、ユダヤ人たちは迫害があってもユダヤ人たちのネットワークを通じてなんとか逃れてきたわけですが、それまでの教育により個人としては突出した能力を得て、兵役を通じ一生もののとも言える人的ネットワークを得る。と言う事でしょうか。優秀な頭脳、そして問題を解決する力で起業をし、そのネットワークは最大の資産となる。それらのネットワークは大義があるからこそであり、単なる貸し借りのドライなものではないと言います。


こういった、人材が大事であり移民を多く受け入れ、子どもには厚く教育をと言う面があり、その結果、世界にプロダクトと言う面でイノベーションを起こす。物をゼロから作り出すことができ、それを基に商売をする。また隣国を圧倒する国防、そういった部分は先日読んだ「通商国家カルタゴ」を思わせるものがある。まさに、2000年の時を経て、再度カナンの地に戻ってきたフェニキア人(人種は違えど)みたいな感じがする。

  • シオニズムによりカナンの地に集結し、建国
  • 建国以来の目的は存続すること
  • 存続のため国防が大事で国防にエリートを集約させる必要がある。
  • イスラエルは個人の能力を大事にする
  • 迫害されてきたユダヤ人達にとって教育こそが資産
  • 子供には移民も含め自立する教育を行う
  • 自立は徴兵により大義も含め若者に刷り込まれる
  • 兵役で得た人的ネットワーク

といったところか。

著者は、先のイスラエルのシステムを踏まえ、日本に対する提言を行っている。イスラエル人は問題を見つけ、解決策を自ら考え実行して作り出すというのは得意だが、それを大きなプロダクトとすることは得意ではないという。そこに日本として協業できる分野があるのでは?と著者は言う。日本人は0から1を作り出すのは得意ではなくとも、1を10にするという部分は得意であると。イスラエルのエコシステムなど参考となるにしても単純には日本には導入できないでしょう。なので、お互いに得意な部分を提供し合えば良いと。

まぁ、自分の生活圏ではイスラエルは特につながりは無いだろうしこれからも遠い国だろうけど、結構面白い本だった。


興亡の世界史 通商国家カルタゴ (講談社学術文庫)

興亡の世界史 通商国家カルタゴ (講談社学術文庫)