arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「10万個の子宮」を読んだ

自分自身は子宮頸がんワクチン問題というのは恥ずかしながら殆ど知らなかったのですが、例の著者がジョン・マドックス賞を受賞され、話題になって来た事でやっと知る事が出来たぐらいです。その著者がワクチン問題として書いた本と言う事で購入して読んでみました。


読んだ感想としては正直、ひでぇなぁっという印象です。一言でまとめると日本の嫌な部分が全部出てしまって「負の相乗効果」で悪い方向に向かったと言う感じです。


この手の問題では「ウエイクフィールド事件」と言うのが有名だそうで、この本にも概要が書いてありますが構造自身がとてもよく似ています。一人の医師(ウエイクフィールド氏)が「新三種混合ワクチン予防接種で自閉症になる」という論文を書き、それから論文が撤回されるまでの10年以上もの間、ワクチンを避ける人がいるために多くの子供が麻疹(ましん、はしか)に感染したと言うものです。


このウエイクフィールド事件ではワクチンの有効性に対し、行政、アカデミック、マスコミなど各分野が正しい方に行ったと書いていますが、この本で書いている子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)では行政は一部の利益団体に配慮し発表を行い、アカデミックは事なかれ主義を行い、マスコミは正しい情報を伝えないという選択を行っています。これが先ほど自分が感じた負の相乗効果です。正直読んでいてこれほど惨い事が起きているのかと感じざるを得ませんでした。


本書によると、先のウエイクフィールド事件では10年間の間に高々10%程度ワクチンの接種が減った程度だが戻るのに8年かかっています。しかしながらHPVワクチンに関しては接種開始後から2か月後に親御さんから神経症のような症状が喚起され、3年の間に接種率が1%まで落ちています。行政(国)がエビデンスベースのサイエンスより国民の感情に配慮し決定を行ってしまったわけですね。単純計算で10%戻るのに8年かかるとすると70%まで回復するには50年以上かかる形ですね・・・どうなるのでしょう。


科学系の本を読んでいて感じるのは著者が「科学的エビデンスが蔑ろにされる我が国の政策に強い落胆」を書いているのがある事です。例えば以前読んだ本では「原因と結果の経済学」や「「学力」の経済学」でも書かれています。専門家でもない人達のふわっとした感情で政策を決めて世界では既に行われなくなってきたものを敢えておこなっていると。本書の場合ではエビデンスの軽視と国民の感情への配慮です。


本書を読んでいると、著者の賞の受賞で本書で言うそよ風は吹いたけど、なんともやるせない気持ちになるなと感じる。このワクチン接種率が戻るのはあと何年かかるのだろうかと。ウエイクフィールド事件の10%程度の接種率が戻るのでさえ8年。HPVワクチンに関してはより迅速に正しい情報が対象者に行き渡り正しい判断が出来ますようにと思わずにいられない。行政、アカデミア、マスコミと大きな話で起こった事件で個人ではどうする事もできない、一人の娘の親として、まず娘だけは正確な知識でワクチン接種を行うこと。半径5mの事をまずしっかり行うという事しか出来ないというのがもどかしいと感じた。