arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「菊と刀」を読んで。これは鋭い日本人分析

以前から読んでみたかったがなかなか買う機会がなかったので読んでみた。ちょい若い頃話題になったのが西洋は罪の文化で日本は恥の文化である、という視点で、あぁ、、なんか西洋を上にした未開の地、日本感なんだろうなぁと思っていた。

 

菊と刀 (平凡社ライブラリー)

菊と刀 (平凡社ライブラリー)

 

 

自分が読んだのは越智俊行、越智道雄訳で、日本での邦訳はもっと前にあったらしい。先の話題もその本に対するもので、試験か何かで使われてその話題だったのかな?初版が2013年っておかしいよなぁ、、どこの時空にきたんだろう?って思いながら読んでた。なんども翻訳されているのね、、納得。

 

日本人特有の「義理」や「恩」と言う感覚、今の時代にはすでになくなっていると感じる「其の所」という感覚。そう言ったものを分析し、日本人観を書く。基本的に日本は階級社会で、その階級内でいることに安心する、それが「其の所を得」と言う感覚。そして、本書では義理や恩と言った西洋人には理解しがたい感覚を、西洋人的に契約、金銭といったことから対比して分析している。これは面白い。

 

また、日本の忠孝と言った概念も説明しているが、この概念自体は中国からの輸入であるが、その上位概念である「仁」は日本に合わず輸入された時点でなくなっている。しかしヤクザなどの侠客(アウトロー)などに意味が異なったものとして定着していると説明している。確かにそう。

 

読んだ感想としては、日本という国を過去のドキュメント上からよくもここまで読み解くものだなぁという感想。西洋は罪の文化だが日本は恥の文化である(西洋は上位だと自負する)と言った議論は的外れである。日本人特有の行動パターンを分析した中の1つとして恥を極度に嫌うということ。

 

正直これは訳者あとがきでも書いていたけど、当事者の日本人にはここまで突っ込めないだろうと言う印象。日本人のあたりまえと感じて行動している時の感覚を説明しているのだから、当たり前の前提を日本人が説明する必要性を感じることもない。

 

心理学で行動分析学なんかは概要を説明すると、「なんだそんなの当たり前のことじゃん?」と反論される。その当たり前と感じる人間を含む動物の何気ない無意識下で行われる「あたりまえのこと」を理論体系化したのだから。ことさらそれをなぜ研究するか?と。本書も日本人の何気ない無意識下で行われる「あたりまえ」の事を書いている。

 

当然ながら戦中に日本人を分析するために、それまでのドキュメント、日系へのインタビューからの分析なので、戦後80年以上たった今の日本人にどこまで通じるか?と言うのはわからない。

 

其の所を得て、という感覚は先日読んだ「一揆の原理」と言う本でも同じような感覚が書いてあった。一揆は今の制度を打倒するものではなく、その時々の自分たちの権利を守るための労働争議のようなもの。其の所を守るために行われるもの。

 

ただ、本書で言われている感覚は多くは武家の感覚であろう。でもそういった今の日本人に強烈に刷り込まれている日本人観と言うのは明治期に列強においつくための制度として必要になり作られたものだ。その際、日本人を1つにまとめるために武家の生活を参考に作られたと本で読んだ事がある。家長父制、男が働いて女性は子供を育てる、色々とあるが。天皇への恩、義務と言う感覚も庶民が明治期に日本が劇的に変わる以前の江戸時代にあったのか?と言われると疑問になる。

 

だけど、以前読んだ「失敗の本質」という本でも感じたのだが、戦後日本人の気質は変わったかと言われると、どうも本質的には変わっていない。先ほど書いた「其の所」という感覚も根底にはまだあるのであろう。ただし、一揆のような今で言うデモなどは行われないようになったが。それらは自分たちは当たり前の事なので感じる事はないのだろうが。なので本書で言っている日本人の文化のパターン、気質も今の日本人に当てはめてもあながち間違ってはいないと思う。

 

 先の恥の文化、に対して感情的に半目するのはいいけど、それ以前に日本人の文化のパターンについてよく見出した本だなぁと。これは読むべき本であった。

 

あと、日本人の睡眠や性に関する所では本当に笑ってしまった。

 

 

一揆の原理 (ちくま学芸文庫 コ 44-1)

一揆の原理 (ちくま学芸文庫 コ 44-1)

 

 

 

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)