arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

プログラマから見たEVMによる利点 その4 工事完成基準と工事進行基準

 工事進行基準がどうのって話がIT業界でも話題になって久しいですが、見積もりを厳格にする必要があるとか契約が面倒臭くなるとかといった情報はウワサでは聞いていたのですが「なんで?」とかそもそも工事進行基準って何よ?といったことはヒラの自分には関係ないぜ!と思っていました。


 EVMを調べている都合上、先輩よりちょっと教えられたのと自分で調べたものをメモ。会計上じゃなくプログラマが仕事に生かす点でって事で書いているので、正確かどうかは自信がありませんが・・・

工事完成基準

 工事進行基準を言う前に、多くのITプロジェクトでは今までこの工事完成基準を採用していますがこの工事完成基準とはどんなことをさすのでしょうか?先輩によると、

工事(作るもの)ができた段階で計上する方法。

 すごい単純でした。工事が完成した時点を基準にするから工事完成基準!しかしこれの何がいけないのでしょうか?工事完成基準は完成後にお金をお客様に請求するために、年度を越すようなプロジェクトでは、決算時点でお金が入らない年も出てきます。なので、会計上は人件費だけが計上されて赤字決算があるのに、次の決算時期にはお金が入るので大丈夫!って理屈です。四半期決算のある会社で、4月から始まったプロジェクト(契約金額:2000万円)が11月で終わる場合を見てみたいと思います。

期間 4月〜6月 7月〜9月 10月〜12月 1月〜3月
原価※ 500万 500万 500万 -
売上 0 0 2000万 -
-500万の赤字 -500万の赤字 500万の黒字 -

※原価は人件費などの開発費用を含みます。

 こんな感じになります。2期とも赤字が続いて、最後の期でお金が入って相殺される。正直言って精神衛生上悪いですね。これが年度を何度か越すような案件だと赤字決算が続いた後に、莫大な黒字決算が出てしまいます。(数年間配当がなくて、最後の年にドンと配当が・・・途中で株を売った人は大損かも)


 これの悪い面は、途中にデスマーチなどで実は赤字が大きくなっていても最後の売り上げが計上されるまで分からないために、最後の最後(売り上げを計上する時点)で赤字が発覚するというところです。

  • 工事完成基準の悪い点
    • 期、年度を越すプロジェクトの場合は、会計上お金が入らない年(期)も出てくる。
    • 期、年度の決算にあわすように無理やりお客様に検収をお願いするなどして帳尻を合わせたりする必要がある。
    • 売り上げが計上されるまで赤字が発覚しないこともある。

工事進行基準

 先の工事完成基準に対し、工事進行基準は、

工事(作るもの)を作っている段階で進捗度合いに合わせて計上する方法。

 ということで、最終的な金額(将来の収入)を進捗度合いによって期に振り分けることによって、工事完成基準の悪い部分を吸収します。もっと言い方を変えると「途中までできたものに値段をつける方法」です。面倒ですが、世界標準的な会計方法で今から主流になっていく方法なので、概要ぐらいは覚える必要があるのではないでしょうか?


 イメージ的には、減価償却を思い出してもらえると簡単です。減価償却は「経費で購入したもの」を買った期に計上するのではなくて、償却期間に均等に振り分ける方法ですが、こちらは、将来もらうであろう金額を進捗度合いに従って振り分けます。但し、減価償却は一旦購入した金額(経費)は変わらないのに対し、こちらは、プロジェクトの進行によって上がったり下がったりします。(見積時点よりデスマなどでコストがかかったなど・・・)下記にはじめの例の場合の工事進行基準での計上イメージを記載します。

期間 4月〜6月 7月〜9月 10月〜12月 1月〜3月
原価※ 450万 450万 600万 -
進捗 30% 30% 40%
計上 600万 600万 800万
売上 150万 150万 200万 -

※原価は人件費などの開発費用を含みます。
※上記は原価比例法での算出

計上金額の算出方法

 工事進行基準で計上する場合、どのような金額の算出方法(振り分け方法)があるのでしょうか?ひとつは原価比例法による算出、もうひとつはEVMによる算出です。いずれも一長一短があるので調べてみました。

原価比例法による計上金額の算出

 工事進行基準で計上する場合で期毎の計上金額の算出のひとつに原価比例法があります。これは何を期にあわせて計上するのでしょうか?これの計算方法の場合は最終的な金額に対してかけた原価の比率から進捗度合いを計算します。契約金額に対し、「コレだけ原価をかけたんだから、進捗はコレくらいだろう、だから計上金額は契約金額の進捗率分」という理屈です。

原価比例法での進捗率の算出方法

発生原価 / 見積総原価

原価比例法での計上金額の算出方法

契約金額 × 進捗率 − 前期売上

期間 4月〜6月 7月〜9月 10月〜12月 1月〜3月
原価 450万 450万 600万
-
進捗 30% 30% 40%
計上   600万 600万 800万
売上 150万 150万 200万 -

※最終的に進捗が100%になる・・・ハズ


 但し、かけた原価から進捗を計算するために、契約金額をオーバーするようなプロジェクト(火を噴いているプロジェクト)では、契約金額と計上金額が合わなくなる場合があるので、総原価を期毎に毎回見直さなければいけなくなります。次に上の例で4月〜9月に火を噴いてしまった場合を記載します。

期間 4月〜6月 7月〜9月 10月〜12月 1月〜3月
原価 1000万 1000万 600万
-
進捗 50% 50% 40%
計上   1000万 1000万 800万

※最終的に進捗が100%にならないのに注意!(この場合140%になってしまい、見積もりと合わない)
※実際には、こういった場合、期毎で総原価の見直しをするはずですので、この通りにはならないと思います。念のため。

EVMによる計上金額の算出

 原価比例法に対し、EVMで計上した場合は、今まで管理してきたEVMの値が即そのまま計上金額に直結します。総原価がACの総計なので、いつでも最新で正確な値となっているのと、進捗から金額を算出するので、矛盾が生じません。また、最終的な計上にいたるまでに、PV,AC,EVから、プロジェクトの最終的な収支(赤字になるか、黒字になるかなど)も予想することができます。

期間 4月〜6月 7月〜9月 10月〜12月 1月〜3月
進捗(EV) 30% 30% 40%
原価(AC) 450万 450万 600万
計上   600万 600万 800万
売上 150万 150万 200万 -


 次に上の例で原価比例法の時と同じように4月〜9月に火を噴いてしまった場合を記載します。

期間 4月〜6月 7月〜9月 10月〜12月 1月〜3月
進捗(EV) 30% 30% 40%
原価(AC) 1000万 1000万 600万
計上   600万 600万 800万
売上 -400万 -400万 200万 -

※実際には、期毎で総原価の見直しをするはずですので、この通りにはならないと思います。念のため。

 しかし、スゲー大赤字プロジェクトだ・・・

どっちがいいのか

 原価比例法を使用するにもEVMで計算するにも、この工事進行基準を適用するためには、見積もりの値段に対し、どれだけ進捗があるかで金額を計上するために、見積もりに対し毎月のコスト(原価)がどれくらいかかったかを正確に把握する必要があります。


 原価比例法は計算方法は楽ですが、矛盾した場合が面倒臭いので、毎日の進捗報告が即、計上金額となるEVMによる原価管理が最終的には楽じゃないかなと感じます。ただ、EVMによる進捗管理は管理工数が大きくなり、比較的小さいプロジェクトでは管理工数のオーバーヘッドのほうが大きくなるため、原価比例法のほうが良いパターンもあると思います。

プログラマから見て

 正直、工事進行基準自体はいちプログラマとしてみるとプロジェクトマネージャなどが知っていればあまり関係がないような感じがしてしまいます。でも工事進行基準の重点的な項目ぐらいはプログラマとして意識していたほうが良い項目だと思います。

工事進行基準の覚えるべきポイント
  • より正確な見積
    • これは、正確な進捗を測るために必要です。
  • 契約習慣の見直し
    • お客様と先行着手などの習慣があった場合などの未契約でのプロジェクト進行を見直す必要がある(そもそも契約金額が分からないものに対し工事進行基準も何もないでしょうし)
    • お客様にも工事進行基準に対して理解してもらう必要がある。
  • プロジェクト管理を厳格化する必要がある。
    • 先の見積もりと進捗把握が売り上げに直結するため