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おっさんの日記

「「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法」を読んだ

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法


共著の中室氏の本を依然読んで面白かったので、何か出てないかなと思っていたところ、共著で出していたので購入。以前読んだ「学力の経済学」は様々な教育関連の社会実験やデータなどから個人の学力はその子供の学力のみならず社会にとっての利益につながるというのがデータが示しているというのが印象的だった。某財務官僚の「教育は個人の利益」と言った方に読ませてあげたい。


こちらの原因と結果の経済学は、データを読む際に間違いやすいのが因果関係と相関関係、原因と結果には因果関係があるがデータは往々にして原因からは直接結果にはならない相関関係が存在し、間違いを起こす。またその間違いのために発生する経済的損失などが起きるため相関関係に振り回されないためにはデータから見た仮設が因果関係を持つかを判断しなくてはならない。


その因果関係を見つけるためには因果推論と言う方法が必要で、では因果推論はどうやって行っていくか、それはデータは実験や経済行動など「行われた事実」しか表されていない。そのためその事実に対する仮説の関係が正しいかどうかは別の視点から見る必要がある。それが「その事実が行われていなかったら」のデータで、それと比較してみれば、原因と結果に因果関係があるかが分かる。


それを反事実と言うが、それは歴史の「たられば」と同様でデータとしては直接観察する事はできない。そのため、データから比較可能なグループを作って反事実であろう値を埋めていき比較する。その方法として全章を通してジュエリーショップの広告と売り上げの関係をケーススタディとし、以下の方法を世界で行われた同様のデータなどを交え説明していく。

  • ランダム化比較実験
  • 自然実験
  • 疑似実験
  • 操作変数法
  • 回帰不連続デザイン
  • マッチング法
  • 回帰分析

個人的には回帰不連続デザインが面白かった。これはジュエリーショップで、従業員が50人以上の店は広告を出し、49人以下の店では広告を出さないという施策を行った場合。広告を出す出さない以外に売り上げもあんまり変わらないだろうし、そこに施策を行わなかった場合の反事実を見出せる。これでこの事実と反事実の数字が乖離していれば、広告と売り上げに因果関係があるという判断もできる。本では以下のように綺麗に(たぶん実際にはこのような綺麗な数字は無いと思われるけど)売り上げが断層になっていて、なるほどと思った。


多分これらの本で紹介された方法は一例であって、その一つの分析だけで判断できるものではないのだろう。自分の業界の仕事の見積もりが2つ3つの見積もりの方法をやってみて精度がましていくのと同じように。


ランダム化比較実験だけど、本書では費用の面などでおいそれと出来る事ではないという。これ読んで思い出したのが、阿部修二氏の「吉野家の経済学」今検索したら2002年の著書でもう15年も前の本であるけど、当時社長だった(引退した?)阿部修二氏が吉野家での改革を描いた本だったような。


内容は例えば吉野家の歴史であったり吉野家を展開するための坪数、キッチンの配置、配膳の際の立ち位置などまでの利益に対する効率化の方法を書いた本。その中で当時牛丼を300円以下にする施策で、店舗によって270円〜300円(うろ覚え)の店を設定して(各店舗への損害を加味したうえで)売り上げの比較実験をして決めたって書いてあった。


企業だったらそういった劇的な事も出来るかもしれない。でも本書もそうだが、前回読んだ学問の経済学でも、著者は両方とも本の中で、世界中で行われた実験やデータなどの因果関係があるのに日本の政策決定はなんの根拠もないものから決定されたりしている旨書かれていて、暗澹たる思いになったのも事実。多分、そういった政策決定をする人が隠居していなくならない限り、変わらないんだろうなあと・・・


参考:

「学力」の経済学

「学力」の経済学