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おっさんの日記

日本史リブレット、江戸時代の老いと看取り

 

江戸時代の老いと看取り (日本史リブレット)

江戸時代の老いと看取り (日本史リブレット)

 

 

日本が老後の看取りについて意識したのは意外と浅く、と行っても自分が生まれてから子供時代あたり。それは本書の冒頭で「たそがれ清兵衛」と言う映画から。この映画、自分は実は見てないんだけど老いた母を看取る家族愛が描かれてあるが、実は原作では老婆と言うのは出てこないのだと言う。

 

たそがれ清兵衛は実は1970年代に書かれた3つの小説からなのだがこの3つにも老婆と言うのは出てこない。1970年代と言うのは日本の高齢者人口率が5%を超えて国連の定める高齢化社会と言うのに突入していたのだそうだ。もう半世紀近くも前から日本は実は「高齢化社会」だったのだ。

 

たそがれ〜が映画として上映されたのは2002年なのだが80年代を通じて高齢者人口比率は10%を超えようやく社会の中での問題として扱われるようになった。その時代背景の中でたそがれ〜では老いた母として原作を書き換え描かれ老いそのものがクローズアップされたと言う。

 

江戸時代の武士は実は老後とか隠居とかは無く、基本的には死ぬまでが忠義なのだそうだ。本書では80や90を超えてまだ現役に忠義に務める武士の姿が見て取れる。昨今の死ぬまで働けなんか目じゃ無いのである。

 

いくつかの藩の例では条件付きで70歳で隠居できるというのはあるらしいが・・・昔の70歳って言ったら超超高齢だぜ?本当に死ぬ一歩手前まで働いていると言う感じじゃないかな。まぁ、日本の年金制度も60歳で引退したら数年間ぐらいのおまけの人生のと言うイメージだったらしいけど。これほど人は死なないとは思わなかっただろう。

 

ただ、本書を読んでいると今のサラリーマンのように毎日朝から晩まで風邪引こうが下痢だろうがなんだろうが働いていないと風当たりが強くてみたいなのはなく、そんなにあくせくとはしてないようだ。江戸時代の死ぬまで働くは今の年金制度が言う死ぬまで働けと言うのとはちょっと違う死ぬまでなんだろう。

 

さて 看取りについては武士、庶民とも誰がするか?については家長の責任のようだ。これは以前読んだ「近世村人のライフサイクル」でも書かれていたように家長が全ての責任において知識を仕入れ、実行すると言う形なのだろう。最近読んだ明治以前の社会において、全ては家の存続というのが命題で家の存続において家長は大きな権限を持ち、またそれは大きな責任でもあったのである。

 

家長が責任において行うが、当然労力不足があったりする。その場合は下男を雇ったりと言った事はあったようだ。武士、庶民ともども親を看取る事は儒教の孝であるとし推奨された。武士の場合は本書によると、申請で看取りのために20日程度のまとまった休みが取れたようだし、見事看取った者には褒賞もあったみたいだ。

 

ただ、看取られる方から見ると、財産などを譲る事を契約書などにして看取られていくと言うのが見れる。自分が看取る事は数十年後の自分が看取られる事、なのだが自分が無事看取られるためにはそれだけの何かが必要であったようだ。

 

庶民は家長が行うにしても働く必要もあり、そこは夫婦ともども行うと言う形のようだがその場合当たり前だが食い扶持を得る機会がなくなるわけで、生活は困窮を極めてくると。また看取ってくれる人もいない老人たちは自殺すると言った事もあったようだ。

 

こう言うのを見ていると以前遠野に旅行に行った時に現地の看板で見た姥捨山についての説明を思い出す。姥捨山と言うと大体は老いた母を山に置いていくと言うイメージがあるが、実は捨てられた老人たちの暮らすコミュニティがあり、そこに置いていくと言うのが実態だそうだ。

 

そのあとはそのコミュニティでは近くの村々から細々とした野良仕事をしたりして食物を得ていく。当然、コミュニティ自体は困窮を極めただろうけど先の夫婦共々看取りを行い、困窮を極め家自体が自滅していくと言うのよりは家の存続と老いた人の寿命と言う面では当時としては合理的な判断だったんだろうなぁと。

 

 江戸時代は家を基本とした生活のため看取りは当然ながら家そのもので家長の責任において行う。現代はどうだろうと見ると家制度そのものが崩壊していると感じるし、何より家長と言うものにそれほど権限はない。介護保険があったり年金があったり。そう言ったものすら今後怪しい。介護は家族で(ほっこり)なんての見かけると怒りしか湧いてこない。上で見たような江戸時代に戻るのかよ!と。 

 

江戸時代の看取りと現代のそれを比較しながら読んでるとなんだか悲しくなってきた。酒飲んでくだ巻いて寝よう。

 

 

 

近世村人のライフサイクル (日本史リブレット)

近世村人のライフサイクル (日本史リブレット)