arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「犬を飼う」を読んだ

犬を飼うと12の短編 (ビッグコミックススペシャル)

犬を飼うと12の短編 (ビッグコミックススペシャル)


 先日映画「マリー・世界一おバカな犬が教えてくれたこと」を見て、最近谷口ジローの短編集が出ていたよな、と購入。谷口ジローは雑誌に載っていた「孤高のグルメ」を見てなんて絵がいいんだろうって、単行本になってから購入、その後、「父の暦」「遥かな町へ」で、時間の重さを扱ったマンガで、なんて面白い話を描く人なんだろうなとなって後は「「坊ちゃん」の時代」(全5部構成)とか、「探索者」なんかは購入しています。あと、散歩シリーズものもね。いままで紹介したのは「孤高のグルメ」意外はすべて1つの話で1冊を使うような長編ばかりだったので、今回のような短編集ってのは初めて。(といっても、手塚治虫の短編集とかよりは長いのですが)


 この「犬を飼う」の話自体は確か大学の知人が自分が飼っていた犬によくオーバーラップすると紹介され読んだのがきっかけでしたが、そのときは自分の犬はまだ元気だったために、「かわいそうな話」としか感じませんでした。今回は久しぶりに読んだのですが、やっぱり自分の犬の場合とオーバーラップしますね。子犬から成犬へ、そして老犬になっていくんだけどヨボヨボのヨボヨボになってもこっちを見つめてくるんだ。マンガのように見られないくらいむごい姿になっても生きている。そして突然の死。


 谷口ジローのマンガって何がいいのかなと考えたのですが、話もそうですし、登場人物たちの書き込み、表情もそうですが、(ちょっと顔が寄ってアゴがデカイよねっていう突っ込みはさておき)背景の描き込みがいいんじゃないかと思う。とくに独特の光の描き方が好きかな。マンガの絵の線自体は強いんだけど、トーンをモヤっていう感じに使った風景の描きこみとか光の感触がすごくいい。


 全体的に珠玉の作品集って感じですが、下に気に入った話を・・・

約束の地

 山登りで急死に一生を得たさいに見たユキヒョウ。ぼやけた感覚で見たそれは神々しいまでの感覚を主人公に植えつけたんだけど、あるとき別の場所で同じユキヒョウを見たときに、山への願望が日に日に強くなる。オトコの夢ってのはいいね。それを送り出してくれるカミさんもすばらしい。


山へ

 息子を熊に殺されたマタギの話。息子を殺されたことでマタギをやめるが、再度、その熊と対峙する機会があるが人間の力なんて武器を持ってしても自然にはかなわないもの。その窮地に立たされたとき、主人公を助けたのは・・・そしてまた孤独になるが、ラストは希望がある。白い雪山に黒い2つの決闘が臨場感たっぷりですばらしい。

白い荒野

 これはお勧め。雪原を進む犬ソリと2人の男、何日間か掛けてその2人に近寄る影たち、始めは食料が無くなり、次に犬がいなくなっていく。そして最後はその影が直接襲い掛かる。もうハラハラ・ドキドキって言うのはこういうのかね。もう普通なら助からないような状況。この先どうなるんだろうかとクギ付けになります。

貝寄風島

 ひ弱な主人公がかわいい。オトコなんて意外とこんなもんでしょう。えてしてオンナの方が度胸があったりと。

百年の系譜

 この短編集の最後の話。最後に泣けて終わります。