arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「IoTとは何か 技術革新から社会革新へ (角川新書)」を読んだ

 坂村健さんは私が尊敬する人の一人なので、本屋で見つけ反射的に買って読んでみた。全体的に坂村健さんがTRON OSなど30年にわたり研究してきたことを絡めながら書いている。TRON OSのシェアはLinux系のAndroid OSとかが隆盛になってきてシェアとしてはどうなんだろうと思っていたが、そもそもOSの立ち位置がリアルタイムOSと言う分野なので別みたい。


 IoTと言うと、最近出て来た言葉で誰も彼もが話題にしている感じがするけど、実は著者が30年以上もTRON OSを通して研究してきたユビキタス、どこでもコンピュータと言う概念はまさにIoTとの事。小さなデバイスが回りの環境にあわせ自立的に動く。


 ハイプ・サイクルと言うものがあり、話題として盛り上がったものは一旦幻滅期を経て回復期、安定期に入り、普及していくというもので、IoTと言う分野、実はいまから幻滅期に入るそうだ。つまり夢が見えた!と言う時機は終わり、いまから、「あーーIoTとはいったいなんだったのか、浮かれてた俺たちは!」となるそうだ。ただ、著者いわく、IoTと言うワードで見ると幻滅期に入るのだが、ユビキタスと言ったワードで見ると実は回復期に入っているという。つまり実現はもう間近という事みたい。


 本書によるとメーカーが囲い込んだクローズドな分野で言うとすでに日本はいくつか実現している。たとえばスマートグリッド。日本はIoTでは先進国なのであった。しかし、著者いわく、IoTはオープンなものにしてこそ意味があり、普及する。


 そのためにはセンサーのデータへの接続方法をAPIなどにして公開する必要がある。そうすれば、プログラムを知るその業界の専門家は、APIを基にサービスを作り、イノベーションを起こせる。メーカーが障碍者一人ひとりへの対応など、コストがかかりすぎて出来ないことも、有志がAPIでソフトを作る事により対応できるしそれをまた公開すれば、似たような悩みを持つ人がそれを基に・・・と言った風に、広がる。


 クローズドからオープンにすればいいのだけど、オープン化を進める段階で日本のガバナンス、制度設計の対応の遅さがネックになっていると言う。その例としてキャリアのガラパゴス携帯とスマホの関係で、ガラパゴス化したから負けたのではなく、クローズドなガバナンスがオープンなガバナンスのスマホが上陸したときに対応できずに負けたという。


 ガバナンスは一種の哲学、それがあり初めて技術をどう使うのかという議論が出来てくるが日本はガバナンスを考えるのが苦手なため、技術の話に入り技術で終わってしまい広がらない。失敗を恐れすぎるなど文化的なものもあり、広がらない発展しない。そういった環境ではジョブズのような人間は生まれないのではなく、生まれても生きられないのだと。社会全体の改革が必要なんだろうね。

 
 本書で、オープンなIoTこそ未来がある、オープンであればその分野の専門家でプログラミングさえできればイノベーションが可能だ。しかしそういう人間を育てるために教育に含めるにも学習指導要領の書き換えが必須で書き換えたとしても実施は七年後になるって、ほんと馬鹿馬鹿しくなるなど。


 プログラミングの義務教育化にはイスラエルに始まり成果が上がっている。アメリカも遅れを取り戻そうとオバマ大統領が宣言し、2015年には実現した。しかしそれまでの遅れは有償無償の民間サービスが補完してたとあり、今やっても7年後の日本とは偉い違い(;_;)


 読んでいて思ったんだけど、各機器が自律的に動くためには回りにある他のセンサーの力を借りて世界を認識する。とあり、人間は目だけでもまわりを認識できるけど面白いなあと。色々な機器の目(センサー)を通して世界を見るんだろうなと。どんな風に見えるんだろうか。そこでふと思ったんだがみんなが未来に想像する自立型の人形ロボットは、自分の持つセンサーだけじゃなく周囲にあるセンサーから世界を認識し見るんじゃないかなと。


 例えばスマートホームなんかも考えてみればロボットだよね。人を体内に入れ、家中のセンサーで世界、部屋を認識し、人間に奉仕する。人間型のロボットも同じで回りにあるセンサーで世界を認識し、考え、人間に奉仕ってことじゃないかなと。


 世界の場末に住む一個人として、仕事として何ができるかと言うと・・・個人や中小企業は出る幕ないよねっと感じた。大資本で標準化出来るところや、情報を持っている所(ユーザー企業、メーカー)がどう、オープン化していくかってことで、専門を持たないIT屋さんの出る幕じゃないよねと。大企業に提案出来れば別だけど。


 いや、面白かったな。先日読んだIoTのさわり本に比べて実装面など現実世界で行われている事を例に語られるので我々IT屋さんには分かりやすい。反面、読むたびに日本と言う国に対し暗くなったのも事実。