arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実」を読んだ。兵士230万人の死亡のうち大多数は自殺を含む餓死

 

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)
 

 

著書の冒頭で知ったが、恥ずかしながら戦争中人亡くなった兵士の方の人数は正確な数字は覚えていなかったが230万人だそうだ。民間人を含めると310万人ほど。

 

ja.wikipedia.org

 

 

その230万人の死について本書ではどのような死であったかを種々の書籍の引用をまじえ紹介する。

 

まず、太平洋戦争は1941年から1945年8月までで実際には4期に分けることができるそうだ。

  • - 第1期: 〜1942年5月/戦略的攻勢期
  • - 第2期: 〜1943年2月/戦略的対峙
  • - 第3期: 〜1944年7月/戦略的守勢期
  • - 第4期: 〜1945年8月/絶望的抗戦期

その中でも死者数で見ると、1944年8月から終戦までの1年間で9割の死者数だそうだ。この数字はどこから出てきたのだろうか?

 

実は日本政府は年次別の戦没者数を公表していないし新聞社からの問い合わせにもそのようなデータの集計はない(データを取っていないと言う事にものすごく驚きなのだが)と言う回答のなか岩手県だけが、年次別の陸海空の戦没者数を公表しており、その数字に民間人を含めて当て込むと得られたと言う。

 

では絶望的な抗戦を行う際、9割の死者が出たのであろうか。多分、戦争のイメージは自分もそうであるが、みな戦闘で死んだ、と言うイメージがある。戦争の終わりたった1年で200万人ほどが玉砕のように敵に突っ込んで言ったのであろうか?

 

本書を読み進めるとそのイメージは崩れ去る。終戦前1年間で死亡した兵士の9割、200万人ほどのうち、戦闘で亡くなったのは3割程度、あとの7割は自殺、病死、他殺、などである。

 

じゃぁ3割程度の兵士は健康的に戦ったのだろうか?それも怪しい。本書によると、例えば10ページでは、戦時中の兵士の歯について言及があり、兵士の7〜8割は虫歯や歯槽膿漏があったという。歯を磨く余裕さえなかったとのこと。歯を食いしばるって表現があるけど、戦闘時に歯が痛かったら十分な力など出せなかったろう。

 

兵士達は劣悪な環境のなか、目的の戦闘までもこぎつけず、自殺や他殺といった本来とは別の原因で死亡していると言うことである。

 

例えば自殺であるが、後尾収容班、落伍者捜索隊、である。後尾収容班は、退却の際、歩けない落伍者を最後尾で収容する班、ともイメージが取れるが、実際には、歩けない落伍者を最後尾で自決を勧告し強要すると言うもの。落伍者捜索隊も同じく落伍者を創作し、自決を強要すると言うもの。

 

また、よくドラマで見る、古参兵による下級兵へのいじめであるが、これも凄惨を極めたらいしい。故水木しげる氏も「ラバウル戦記」と言う本のなかでよく古参兵に殴られたと言う描写があるが、新参兵が殴られて、部隊の中で安全を確保できず、衰弱死していくのである。死亡したとしてもそれは病死や名誉ある戦死としてあつかわれるなど。

 

 

こういった現実について軍の上層部は認識していたのだろうか?ここでも日本軍のイメージは、「精神力だ」を連呼するだけで何もしなかったように感じるが、本書によると、先の歯の件に関しては認識していたようだが、何もできなかった(なにもしなかった)ようだ。

 

上等兵によるイジメに関しては、不適合者がそのような報いを受ける、それによって精神的に成長すると言った事だそうだ。それによって不適合者がいなくなると言う側面もあるとのこと。それにより自殺や他殺が起き、実際には問題にならず戦病死(戦闘で戦った者)として扱われる。どこの相撲部屋だよ

 

読んでるとね、だんだん腹がたってくるよ?終戦の時期になると日本兵たちは無駄死にだったのか否か?といった議論がよくみられるが、戦闘が目的とするなら(これも変な言い方だけど)大多数の兵士達は無駄死にだったと言う事だろう。戦闘までこぎつける事ができず、飢えと乾き、自殺や他殺により死んでいく。大事なはずの兵士が無策のため水をザルに汲もうとするように抜けていくように死んでいく。

 

そのほか、本書では直接の死の原因ではないが、装備や武器、医療など兵士を支える部分からの現実も書いている。本書を読むに、兵士の命は枯葉よりも軽いのである。よく言われるように日本は負けるべくして負けたと言うのがよくわかる。