arcanum_jp’s blog

おっさんの日記

「「学力」の経済学 」を読んで、結局親の愛情度合いが学力となる

「学力」の経済学

「学力」の経済学


よくツイッターで話題に上がっていたので読んでみたいと思っていた所、書店で偶然平積みしてあるのを見つけ、そういえば読みたかったと思い出し、購入することができた。本買う時って読みたい本があったとしてもそれを目当てに本屋行くわけじゃないから以外と偶然が本を買う重要なファクターになったりするよね。



著者は教育を経済学的な手法で分析する「教育経済学」を専門にする方でその著者が本書で言うのは教育にエビデンスをと言うことです。教育の経済学的な価値なんて実験のエビデンスから何が分かるのだろうか?教育は数字で測れないものだ!学者様の考える事は分からん!また僕ら市井の人には何がメリットなのだろう。子どもなんざビシバシシゴキャいいんだ!放っておいても子は育つ。おおらかに育ってほしいな!


本書は子どもを持った親なら一度は感じるであろう疑問

  1. 子どもを勉強させるために、ご褒美で釣ってはいけないの?
  2. 子どもはほめて育てるべきなの?
  3. ゲームは子どもに悪い影響があるの?

をつかみに、どのような教育が有効か、について答えを見せてくれる。その答えは、

  1. 子どもを勉強させるために、ご褒美で釣って「よい」
  2. 子どもはほめて育てでは「だめ」
  3. ゲームは子どもに悪い影響は「ない」(時間的制約あり)

だ。これだけでももう答えを見つけたような気になり僕は有頂天になって松明でも持って躍りながら、真理を手にいれた!と叫ぶだろう。それらの事実の証拠を世界で行われた既に結果の出ている研究のエビデンスを基に紹介する。


本書を読んで感じたことは、教育において学校の役割ではなく、なんと家庭の役割が重要かってこと。本書でも言っているように学力に多大な寄与をするのは学校ではなく実は遺伝や環境などその子には変えられないものや、家庭の子供への教育。それは平たく、有り体に言えば、「親の愛情」の度合いが子供の学力に影響するのだろう。親の愛情?抽象的だな、もっと具体的に言うと、親の子供に支払ったコスト。


30点。もっと具体的に。親の子供に支払う自分の時間や、経済力だ。親の子どもに支払う時間、勉強を見てやったり、勉強以外でも自制心が付くように諭してやったり、日々の躾であったりその中で子供の自立心を養ったり。子育てのなかで毎日自分の時間を割いてする地道な子どもへのコミュニケーションだ。経済力があればそれらのいくつかは自分の時間を使わずに子どもに施せたりする。いわゆる家庭教師なんかのお金払ってやる系だ。


ただ、やみくもに親の愛情をかければ良いものでもないらしい。それらにはかけ時があって、本書ではそのかけ時をエビデンスを基に紹介する。例えば先の疑問、勉強させるためにご褒美で釣ってはいけないのか?ご褒美で釣ったら非人間的に育つのではないか?子供は人間で動物じゃない!ケシカラン!私の愛情はそうじゃない!となりそうだけど、ご褒美を子どもに施すタイミングがあると、研究結果から読み取れると。


そのタイミングとは、例えば本書ではこのような質問で表す

・テストで良い点を取ればご褒美
・この本を読んだらご褒美


この質問のうち、どちらが学力を上げるか。自分たちもよくやるが、この日までにこれが出来たら望むゲームを買ってあげる。これは有効なのだろうか。先の答えは後者が有効。テストで良い点と言う『結果』に与えたとして子どもには、じゃぁどうやれば結果がでるか?(褒美がもらえるのか?)と言う方法が分からなく、対策として「テストの問題を気を付けて読む」や「回答を見直す」などのテストを受ける際のテクニックに集約していく。また、それらはよい点を取れるとは限らない。(褒美がもらえるとは限らない)


対して今すぐこの本を読めば褒美がもらえるという『インプット』に対する方法は、子どもがやる事が明確で、なおかつ褒美が確実にもらえる。このことから結果に褒美よりインプットに褒美の方がよい。これが愛情のかける部分なのです。そういった事が沢山の研究のエビデンスとともに示されます。もしくは、結果に褒美を与えるには結果を出すための勉強の仕方を教える。つまりこれもインプットの仕方を覚えさせる。インプットこそが重要なのです。


これ、行動分析学的な本をいくつか読んでるとすんなり入ってきます。本書にも書いてますが、褒美(行動分析学では好子と言います)は近い将来において行動に対する結果として即座にもらえるのであればその行動は強化されていきます。つまり、「この本を読んだらご褒美」は、行動の強化を目指しているわけです。それを続ければ、子どもにとってはインプットが充実していくし、結果として本を読む行動が強化されていきます。行動が強化されると褒美関係なく行動はなされるようになります。よく言われる自発で内的動機にあたるのでしょう。これがよく言われるうちの子どもは勝手に勉強するの、オホホ、、、(自慢)の正体なのでしょう。


じゃぁ施す側(環境を作る我々親)から見れば何が重要なのでしょうか?それは先の褒美を施すスケジューリングこそが重要になります。短期的(1日単位で見て)に何の結果として褒美を与えるか、中期的(1週間〜1か月単位)で日々の行動に対する褒美は何を与えるのか、長期的にみてどのような行動、結果に対し褒美を与えるのか?です。なんて親の愛情とは自分のコストがかかるものなのか!


じゃぁ子どもを持つ親としては、経済的な観点から、親の愛情(時間であったり経済力であったりするコスト)を本当に使うべき所はどこか、使ったお金が最大限子どもに還元される年齢はいつか?と言う疑問が浮かびます。一般市民お金ないですからね。本書ではそれに対しても既に研究結果のエビデンスから答えを出しています。それは幼児期です。幼児教育こそが重要であると。


本書では第3章として「勉強はそんなに必要なのか?」で、この章がさらっとしか書かれてませんが重要な事が書かれています。多分、本書は研究のエビデンスベースで紹介するためそのエビデンスが無いために書けなかったのでしょうか、幼児教育で大事なのは学力でもなんでもなく、自制心といった学力に現れない部分、非認知能力とのこと。以前読んだ「マシュマロテスト」と言う本でも書いてありましたが、自制心のある子どもはその後の将来において、酒、ギャンブル、たばこや犯罪などへの誘惑に負けず、なおかつ収入も高い傾向があると書かれています。


ちなみに幼児教育で学力を伸ばした場合でも、その後の人生において数年で幼児教育において学力を伸ばさない子と同じくらいに平均化されていく。学力と言う面では施しても無駄になっていくのですね。残念。では幼児教育で何がはぐくまれたのか?それが勉強をするという行為への我慢、自制心などの非認知能力がはぐくまれたのではないかと本書では言っています。あーーーうちの子ども既に小学生なの!遅すぎ!!じゃぁ俺はもう自制心と言うものは得られないのか?大丈夫。その辺も本書では答えを書いています。(読んでね)


本書で面白いと感じたのは、じゃぁこれらの子供への教育はその子供にしか利益は無いよね、それはその子の親が自己責任に置いてすべきものでしょ?(●´σ‥`)ホジホジ・・・まぁこんな感じのことネットでよく見かけますし、子どもを育てるうえでそういう雰囲気は感じます。(主に経済的な部分でとか)しかし本書ではこれを明確に否定します。

就学前教育への支出は、雇用や、生活保護の受給、逮捕率などにも影響を及ぼすことから、単に教育を受けた本人のみならず、社会全体にとってもよい影響をもたらすのです。

こうした社会全体への好影響を「社会収益率」として推計したヘックスマン教授らによると、ペリー幼稚園プログラムの社会収益率は7〜10%にも上ると指摘されています。


普通に考えれば教育を受けなかった人が何千人いようとも、教育を受けた一人が研究で発明をする、その発明がその人の利益のみならず皆に還元されていくことを考えれば利益の収益率を考えた場合にどちらが効率が良いのでしょうか。それは自明な事なのですが、国としても税金を投入して幼児教育を充実させるというのは比較的割のよい投資であり将来において皆に利益があるのです。なので発展途上国は教育に力を入れたりする。子どもの教育は親の自己責任ではなく、社会全体ですべきものなのでしょう。しかし幼児教育の現場にいる現在の保育士の扱いを見るにそうなっているのでしょうか?と感じます。これは制度の問題でしょうが。


上で長々と書いてしまったことはほんの一部ですが、ではそういった教育への研究と成果、成果からのフィードバックは日本ではどのような事が行われているか?が疑問にないます。効率の良い投資の方法が必要ですからね。一般市民お金ないし。これが著者の本書を通じて本当に訴えたい事ですが、残念ながら殆ど行われていないと言うのが著者の主張です。日本の教育において先の紹介されたようなエビデンスを元にした議論は行われておらず、世界で既に答えが出ている研究に目を背けた施策を行い、わざわざ効率の悪いものを施しているように見えると。


例えばそれは少人数教育であったり、教師の質向上の問題であったりと言った例で示されます。研究じゃなくても施策に対するフィードバックが無いんだろうなと。それは今まで我々が受けてきた英語教育にも見てとれますし、ゆとり教育に対する総括、フィードバックが取られているのでしょうか?今度始まるプログラミング学習にしたって同じです。それらは始める前に比較実験を行い、エビデンスで効果があるものを取り入れていく。それが著者の教育にエビデンスが必要と言うことです。


著者があとがきのなかで、講演が終わって親御さんの一人から激励の言葉を受け教育経済学をまい進する力になったと書いていますがこの本を読み、国の制度的なやり方がまずく、結局は現状は子供に親(自分)がコストをかけるしかないのだという事です。お金ない小市民としては、共働きは辞めて一人が家にいる時間を延ばす、または両親に家にいてもらう、地域で見る、など誰かが子供に対するコストをかける必要があります。勉強を子どもに任せてはいけません。子供に対する危機感だけはひしひしと感じられるようになった。


最後にもう1つ面白いなと感じたのは、本書を読むと今からでもできる簡単な方法があります。「教育を受ける事の経済的な価値」を子供に説明する。これだけでも学力向上に寄与するとエビデンスが言っているとのこと。まさに、たまに見かける「ガッコの勉強なんか社会では役にたたんわ、ワッハッハ!」とか言ってると子供は勉強しないし学力なんか向上しないわけです。日頃の行い大事。それよりも「大学卒と高卒では生涯収入に1億円の違いがあるよ?ギャンブルで1億円儲かる?」って言うだけでも子供に良い影響はあるのです。こんな簡単な、今すぐ出来る方法もあったなんて!これだけは希望でしょうか。



参考

ちょうど最近にインタビュー記事がありました。本書の事例もかなり載っているので、本買うまでいかねぇわ!とか言う方はこちらをどうぞ

TOP 子育て・教育 中室牧子 勉強するメリットを子ども達に伝える意義
中室牧子 勉強するメリットを子ども達に伝える意義
一覧を見る
子育て・教育2017.02.27
中室牧子 勉強するメリットを子ども達に伝える意義
『学力の経済学』著者・インタビュー(1)/物事のメカニズムを解明する「経済学」が、子育て中の親達に語りかけること

http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=8287&n_cid=DUALTW03


著者の別の本です。面白そうですね、、読んでみたいです。だれかください。

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法


先に書いた「マシュマロ・テスト」の本です。幼児教育について、行われた実験について書いています。アメリカの強さと言うのはこういう部分にあるのかなと思った次第です。

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子

マシュマロ・テストは著者が1960年代に行った、子供の前にマシュマロ(その子が気に入るもの)を置き、今ひとつもらうか、我慢して後で2つもらうかと言うのを観察したテストで、その後の被験者の様子を娘を通して聞くと自制心とその後のステータスに相関が見いだせたので70年代に550人ほどの子供で追跡調査を行った。と言うのが始まり。自分と同じ年代の人が被験者。すでに50年もの歴史があるのですね。

http://d.hatena.ne.jp/arcanum_jp/20160115/1452869148