モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
- 作者: ダニエル・ピンク,大前研一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/07/07
- メディア: ハードカバー
- 購入: 101人 クリック: 5,453回
- この商品を含むブログ (153件) を見る
本書の提灯記事がWebサイトであったので、「へぇ〜面白そうだなぁ」と思い購入。はてブが凄いことになっているなんてはつゆ知らず。本書の覚えるべきところは色々なWebサイトで紹介されているけど、明快です。本のタイトルの「モチベーション3.0」の通り、ヤル気(仕事をする上での動機付け)についての研究本です。モチベーションについての考察を色々な視点から書いています。
OSという視点
仕事をする上でのモチベーションにもOSがあり、1.0から2.0と発達してきたが、最近は2.0ではうまくいかず3.0が重要になってきた。各OSのバージョン内容については・・・
- バージョン 1.0
- 生存に必要な考え方。
- バージョン 2.0
- アメとムチによる仕事の動機付け。
- 本来人間は、怠惰なので管理してこそ成果が上がるという考え。
- ルーチンワーク的な仕事には有効。しかし近年そういった仕事は安い労働力を買える国にシフトしつつある
- バージョン 3.0
こんな感じ?
個人のタイプという視点
様々な研究から、モチベーション3.0の有効な仕事では、モチベーション2.0で行ってきたような「この仕事をやれば高い報酬」のようなモチベーションの上げ方はかえって逆効果。そのような人間の性格−−モチベーション3.0を発揮しやすい性格として、タイプI(アイ)の性格が上げあられる。その反対はタイプX。タイプXはマグレガーのタイプXY理論でも出てきたが、「人間は怠惰な生き物なので管理されることを必要とする」という考え方。本書のタイプI,X理論でも同じような考え方。それに対し、タイプIは「人間には「新しいことややりがいを求める傾向や、自分の能力を広げ、発揮し、探求し、学ぶという傾向が本来備わっている」というもの。要するに自主性を重んじるもの。
感想
読んだ感じとしては正直面白いなぁと感じました。若干、我々日本人が感じている「モチベーション」と「パフォーマンス」がごっちゃになっている感じがしたので勝手に混乱してしまいましたが。例えば実験の結果として、コレでもかと言うくらい金額を多く積んだ被験者達の結果は悪かった点があげられたが、これは金額が上げられたから視野が狭まり(なぜか)モチベーションが下がったのか、金額が上げられたから、モチベーションは上がったが、著者の言う視野が狭くなってうまくパフォーマンスが上げられなかったか、よく分からない。そういう邪推したくなってくる。
これについては、必要十分な金額以上を提示すればするほど、それが当たり前になってしまい、作業が仕事になってしまい、その作業をするモチベーションが上がらなくなってしまうというもの。日本人が感じている「ヤル気」という訳ではちょっと分からなくなってしまう。
我々の多くがいる著者の言うモチベーション2.0という環境下ではそう感じてしまうが、実はそうじゃないって事だろうか。この結果だけを見ると、ヤル気を起こさせれば、サビ残バンザイって意見になってくるような危険性が見え隠れする。だって仕事と思っていないところで勝手に活動するわけだし・・・モチベーションと言う言葉の訳として僕達日本人は「ヤル気」を上げるが、単にヤル気をこの研究結果と著者の主張にあてはめてしまうとまずい気がした。
日本でヤル気と言ったらどちらかと言うと体育会系的な、「猪突猛進」みたいで「ヤル気≒猛進≒上司の言葉は絶対≒言われた仕事ができないヤツはヤル気なし」な感じだが、ヤル気ヤル気と言って、報酬なしで働かせてよいと誤解される可能性がある。短絡的な経営者から見れば「あ、なんだ金払わなくていんだ!」って読み違える人もいるかな。これについては、タイプXとタイプIの説明の項で、モチベーション3.0で動く人(タイプIの人間)は金銭や他者の評価を軽視しているわけではないと注釈で書いている。また、モチベーション3.0を追行する上で今までのOSであるモチベーション2.0をすべて否定するわけではない。「馬の前にぶら下げる人参が妥当な量(Ver2.0)、しかも仲間内と業界で」と言う大前提が成り立った上で有効になると言うこと。
この著者の言う通り、モチベーション3.0で動くには3つの要素が必要になるのは非常にわかる。これらは本当に信頼関係のある師弟関係以外の通常の仕事上の上下関係では生まれないし、個人の問題。それが本書の第2部に書いてある、以下の3つ。
- 自律性(オートノミー)
- マスタリー(熟達)
- 目的
これ、趣味で何かを成し遂げようとしている人、そうでなくても楽しみがあって生きている人は分かるでしょう。すべて必須ですよね。この3つが体感できるからこそ、趣味は面白いのであり、仕事じゃないのにやってしまう。お金のことは二の次になってしまう。僕の仕事で言えば本来仕事の一部であるはずの、プログラミングや、それを統括するすべてを学ぶこと。
誰にも邪魔されない環境で、好きな方法で好きな分野を寝るヒマを惜しんでやること。知識にすること、手になじませること、一つ一つは10年で結果が出るような地味な作業だったりするけど、それが楽しみとなる。著者の言葉を借りると「マスタリーは苦痛でもある」ではなく「マスタリーは苦痛ですらない」
じゃ、本書の内容を仕事として生かすにはどういった方法があるだろうか。20%ルールなんていわず、会社の仕事は8時間、もしくはそれ以上きっちりある。その中で部下には仕事以外のものも勉強して生かしてほしいとか言われるよね。(矛盾するけどこれ、よく言われるよね。仕事以外の自分の時間を使って仕事に使える技術を勉強せい!もっと会社に奉仕しろって言う事なんだろうけど)
本書でいうと・・・
- まず、ヤル気の無い勉強とかについて、上司は部下に対し・・・
- 「この勉強は現在、未来にわたり仕事にとって必要」と言うことを論理的に説明し、
- 「この勉強は君にとってはつまらないこと」を認め、「しかしこれがいかに重要か」を説明し、
- あくまで部下の自発性を重んじ、やり方も部下にまかせ、結果を待つ。
- 間違っても「これを勉強したら、飲みに連れて行ってヤル」とか、「1から10までやり方を指示する」を行ってはいけない。
- この時点では部下の感覚では仕事(やらされ感の強い仕事)。
- 結果はポイント、ポイントで確認していくが、たまに「突然の報酬」で報いる。毎回報酬を与えては駄目。
- そのうち、やらされ感の強かった勉強なども、仕事から遊びに変質する部分あり。行動分析学で言う、派生の原理。
- だんだん報酬(突然の報酬など)が無くとも勉強しはじめる(この時点ではもう仕事ではなく遊び)
と、
うーん・・・どうなんだろう。そんなにうまくいくのかな。この場合には、本書で言っているように、その人の報酬が、仲間内、業界で十分にもらっていると自覚していなきゃ使えない。また、ポイント、ポイントで確認していくと書いたが、これには確認するほうも勉強しなきゃわからん。自分の子供の興味あることを親が一緒になってヤルぐらいのコミット力が無いことにはできない。結構難しいのでは。
本書の内容は面白いけど、目新しいことを言っているわけではない。先日読んだドラッカーのエッセンスそのまんまの部分があったり、ドラッカーなどの先人の言っていることを単に著者のセンスでキャッチーな言葉で生まれ変わらせた感じでしょうか。それが、仕事への取り組み方をモチベーション1.0〜3.0と分かりやすく再定義したのであり、人間のタイプをマグレガーのタイプXY理論に習って定義したのと同じように、タイプXとタイプIに再定義した。モチベーションを持続させるものとして、3つの「自律性」「マスタリー」「目的」という言葉で表現した。非常に分かりやすくなった。こういうヤル気系の本は色々出るけど、結局50年前から本質は変わっていないのかな。
最期に、本書は面白いし、もっと書くことあるんだけど、自分の仕事のなかで一つ自分が思っている同じことが書いてあったので、引用するよ。
p131 :トム・ケリーの言葉から(IDEOゼネラル・マネージャー)
クリエイティブな集団にとって、もっとも大切な自由とは、新たなアイデアを試せる自由である。イノベーションには費用がかかるのではないか、と疑ってかかる者もいる。長期的に見れば、イノベーションは安価だ。凡庸に甘んじれば高くつく。自律性がこれに対抗する手段となるだろう」
自分の業界にとって、自分が発見したアイデアを試せる場所ってのは重要。時には家でもできるけど、会社の資産を使えば簡単に実現できるときもある。無駄に使っている!という疑いの短期的な視点で「会社の資源を使って試した成果は?(キリッじゃなくてブス!)」と聞いているだけでは何も生まれない。ヤル気も起きない。
疑いじゃなく先の3つの要素を信じ、個人の自立性を重んじて、試させたほうが実は面白いこと(イノベーション)が起きるのではないかな。リスクに対し神経質になるあまり、試す自由が奪われては起きるイノベーションも起きない。(自分がイノベーションを起こせる!とは到底思っていないが、イノベーションって大量の試行の上になりたっているんでしょと思う)